くしゃくしゃのレシートは「豊か」であるか?
「豊か」ってなんだ?
ヤマタノオロチ外伝という演劇に出てきた台詞である。
高校生の時、私は演劇部に所属していて、この言葉を発したことがある。
作中で「豊か」について結論が出たか否かは覚えていないのだが(私は過去のことをすぐに忘れる)、
当時高校生の私には答えが出ない問いであった。
クソデカクエスチョンすぎる。
「幸せとは何か」と同じ類の質問である。
この十人十色、千差万別の答えが出そうな問いは大人になった今も私に付き纏っている。
先日、本屋に行った。
普段は本を読まないが、2ヶ月に1回くらい本を読みたくなる時期があるのと、最近影響を受けているYouTuberが読書家ということを知り、どれ紹介されていた本でも読むかと本屋に向かった次第である。
目当ての本を手に取る。1500円。むむ。
普段本を読まないので本の値段にはやや足踏みをしてしまう。
自分に合うかわからない本に1500円。むむ。
私はふとメルカリを開く。
あわよくば安く売っていないだろうか。
しかしほとんど売れていてほぼ定価でしか出品されていない。
まぁ0から1を生み出せる人が心血注いで作ったものにはしっかり対価を払わなければならない。
財布と己の信念を天秤にかけ、私はえいやと本を手に取った。
あとはなんか気になったエッセイ(500円)を1500円の本に重ねてレジに並ぶ。
私の前にはグレーの汚れた作業着につるつる頭のおじさんが並んでいた。
本屋というよりもコンビニで立ち読みをしていそうな風貌である。
おじさんがレジに本を出す。
何買うんだろうと視線をレジにやると、分厚い文庫本を4冊も出しているではないか!
おじさんは財布は持っていないようで、ポケットから一万円札と本屋のポイントカードをトレーにぶっきらぼうに出す。
「5600円です」
「1万円からお預かりします」
レジのお姉さんが業務をこなしていく。
5000円!!
おじさん、本に5000円を惜しげもなく出せるの!?
1500円に躊躇する人間のなんと貧しいことかと目を丸くする私をよそに、
おじさんはエコバッグを取り出し購入した4冊を大事そうにしまっていく。
お釣りをトレーからごつい手にじゃらじゃらと流し、それらをまた作業着のポケットにダイレクトインした。
レシートはくしゃくしゃである。
そうしておじさんはのしのしと歩きながら帰って行った。
あの人は豊かである。